PAOPAO WONDER LAND GODZILLA SIDE SPECIAL
イノウエアーツの世界
神戸もののけ紀行
INTERVIEW WITH INOUE ARTS
sorry Japanese only
ドラフト第2版
1999年4月2日
[イントロダクション]
数々の名作を生み出したガレージ
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まず着いて驚いたのは、氏の住居のある神戸の一画。 街を見下ろす高台の住宅街にあり、裏には自然を抱えた山が広がる。 眼下に広がる神戸の街越しには、神戸港があやしく輝いている。 4月にもかかわらず、その気温の低さは松本と並ぶ寒さであった。 豊かな自然とひんやりとした空気の中、ゆったりとした時間の流れがそこにあった。
家から迎えに出てきた氏は、まさに「もののけ王」であった。 足元に4~5匹の猫がまとわりつき、1匹の犬が横に従う。 氏が道路からガレージに向かう間、家からあふれ出た猫たちは、餌がもらえないと悟ると、四散していった。 犬の方は道端でおとなしく待っている。 この犬について尋ねると、飼っているのではなく、「一緒に暮らしている犬の友達」なのだそうだ。
招かれるままガレージに入ると、数々の名作を生んだ井上工房がそこに広がっていた。 いや、正直言って、朽ち果てた物置と化したようなホコリまみれの雑然としたその光景から、頭では理解していてもそこがメインの工房だと実感するまで、しばらく時間がかかった。 普段は締め切っているらしく、犬や猫の独特のにおいも鼻を突く。 明かりをつけ、換気扇をまわし、奥のソファーに無理矢理座る場所を作って、座らせてもらった。 奥の作業台の前に氏が座り、そこでやっと、ホコリまみれの物置が現役の作業台として輝き始めた。 完成品こそ無いものの、大小様々な習作が2つの作業台と足元に所狭しと無造作に並んでいる。 壁には、80年代に作られた初ゴジのポスターや、書き割りのベニヤ板、色々な想いの詰まった切り抜きや写真が貼ってある。 入り口の引き戸は、光が漏れないよう、黒の紙で一面マスクされている。 氏の両脇には、小テーブルにこれまた山のようなモスゴジの資料写真が折り重なっていた。
その定位置に座って、ジオラマの木の作り方やイメージスケッチや現在取り組んでいるモスゴジの頭部について、熱心に語ってくれた。
[発言・エピソード集]
モスゴジについて
「この(左頬の後ろの)R出すのに3ヶ月かかったわ~。 ほんま難しいわ。」
ギドラについて
「ギドラは(頬が)平坦だから簡単よ。モスゴジは難しいわ。」
「ウロコが問題やね。ケント紙で型作って一枚一枚貼ってかんと、めくれた感じがでえへん。 それカットするための刃の金型、どっかで作ってもらえんかなあ。」
モスゴジ以外の制作について
「今はモスゴジに集中してるから、他のんは作れんのよ。 これ終わったら、考えるわ。」
モノクロ写真を見る時は、コントラストを強調するため、蛍光燈に透かして見たりされていた。
ラドン幼体について
「中の人の下半身がどうなっとるのか、わからんのよ。」
同じく正面奥のモスラ幼虫について
「(これも)ラドンのブーツ履いた人間を中に入れんとあかんのよ。」
工房の中
・本棚には、ゴジラやウルトラマン関係の他、サンダーバード写真集、ドイツやロシアの戦車の写真集、ロマンスカー等乗物の写真集が粘土と一緒に並んでいた。→
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・足元には踏み場もないくらい、溶剤や薬品が並んでいる。→
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・壁のポスターは、イノウエアーツの初ゴジの他、空飛ぶモノレール、実写版アトム、轟天号、キングコング、マルサンのチラシ、バラゴン等氏のお気に入りのものが見てとれた。→
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「怪獣よりオリジナルやりたいわ。 怪獣はコピーやから、分析にものすごく時間がかかる、たいへんやわ。」
「怪獣は、深いよ~。」
歌舞伎や能の題名をあげながら
「バラゴンはxxのきつねの動きだし、アンギラスのXXのシーンも歌舞伎やね。」
「サンダとガイラの対決シーンでこう対峙するとこなんて能そのものや。」
ジオラマ用にストックしている、大中小にきちんと箱分けされた木を見せながら
「ジラマ作るの好きやね。これ、こうやって(爪楊枝で)枝を立ててくねん。」
「作りもんは、あかんよ。やっぱり、木は本物やないとね。 裏の山で、これ探して拾ってくんねん。」
「昔は、サイコロ・アメ(キャラメル)とかおまけに付けてたねぇ。 おもろかったわぁ、マンガやでえ。」
「夜作業してるとね、夜中の2時頃ちょうど『うし三刻』ごろに、山の精気っていうか、(人外の)いろんなもんが入ってくるんよ。」
不思議体験
「友達と飲み行った帰り、あの神戸港からおっきなプラズマが海からあがってったわ。 3人で見たから、ほんとよ。びっくりしたわ。」
「40歳のとき、若い娘本気で好きになってね、手紙書いたりしたけど、ふられて、それで、(時々行く御神木のような)山の木のとこいったら、白いもやがブワーっとかかって、その後何も解らなくなって、気が付いたらその木の根元で倒れてたわ。」
「幻覚なんか、なんなんか、想像力が強いからどこまでが本当でどっからが自分の想像なのかわからんようになる事がある。」
工房で見たイメージスケッチ
・「空を飛ぶための線路と、昭和30年代のレトロ風モノレールや電車」
・「設定版モスラが山の上からトロッコに乗って、ゴジラを追っかけてるもの」
・「実写版鉄腕アトムの口が牙になってる絵」
「(90年頃)ほんとは、怪獣の後、オリジナルでエロスやりたかったんよ。 少年の中性的な魅力っていうか、そういうの彫刻でやりたかったわ。」
ガレキの美少女アニメキャラ・ブームについて
「形は違うけど、次はエロスっていうの、当たってたんやね。 そういうエネルギーって普遍やからね。」
「(今で言う宮崎駿風のレトロと幻想感が混ざったような)乗り物もやりたいね。 昭和30年代の雑誌に載ってたような、モノレールとか、プロペラの付いたやつ。」
「こういうの、ブリキや木で作りたいわ。」
この後食事をし、深夜営業の風呂屋から明け方の食事処までごいっしょした。 驚くべきは、その記憶力。 例えば風呂屋の露天ブロックにある木を指して、「これ、サンガイ(サンダ対ガイラ)の木やね」と言う。 話がどの怪獣映画のどのシーンに飛んでも、その場面を身振り手振りで細かく再現できるだけでなく、シーンごとの木の特徴まで記憶しており、 「これはXXのXXシーンの山の木や。」などと平気で話すのである。 およそ当時の怪獣映画の全場面が刻印されている、人間ライブラリのようだ。
終盤となった明け方には、現在のガレージ・キット界の動きなどお話し、このまま引退はできない、あと何点かは、怪獣を出すと言ってくれた。 訪ねてくる人間も少なく、閉鎖的になってしまうと良くないとご本人も言っていた。 こりゃ、また何ヶ月か後に、見に行かんといかんかなあ、制作中のモスゴジ。
協力(敬称略)
怪獣パラノイア 井上雅夫
怪獣マニア 西尾真一
All photograph by Tadao Inoue and Masato Matsumoto.
Degital graphic data (C)Masato Matsumoto.